東京地方裁判所 昭和46年(モ)17657号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔決定理由〕土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求について訴訟上の和解が成立し、建物所有者が右収去明渡を約した場合においてはその和解の効力を受くべき状態にある建物所有権を承継した者に対しては、右和解の効力が及ぶものであり、多くは、和解成立後建物所有権を取得する場合は、右承継にあたると云いうるけれども、その承継の原因が任意販売手続において、抵当権実行の結果、競落したことにあるときは、その競落の時期が和解成立後であることをもつて、直ちに、和解の効力の及ぶ特定承継をなしたものということはできないのである。けだし、任意競売手続においては、不動産は、競落当時存在した最先順位の抵当権設定登記当時の状態で競売に付され、競落人はその状態における不動産所有権を取得するのであるから、競落により承継する不動産所有権の状態は、競売開始決定の送達もしくは競売申立記入の登記当時におけるそれではなく、右最先順位の抵当権設定登記当時のそれであり、したがつて後者の権利状態が和解の効力をうくべきものであつたか否かによつて、当該競落による取得が特定承継にあたるか否かを判断すべきだからである。それ故、和解成立後に右最先順位の抵当権が設定され、その実行の結果、競落されたのであれば、右抵当権の設定登記当時、その基礎となつた所有権は、和解の効力をうける状態にあつたのであるから(したがつて、抵当権設定自体、特定承認にあたるといえる)、右競落による取得は特定承継にあたるが、和解成立前に右抵当権設定登記がなされているときは、その登記当時の所有権はなんら和解の効力をうける状態になかつたのであるから、和解成立後の競落も特定承継にあたらないといわなければならない(以上の説示につき、観点を変えて考察すれば、競落人は、建物所有者として土地所有者の建物収去土地明渡請求を争うことのできる地位を、建物所有者たる和解当事者から、該所有権の取得とともに「承継」したわけである―したがつて、後記の如く、土地所有者から別訴の提起を受ける適格者である―が、他面、抵当権者が、抵当権設定登記後の抵当物件上の負担の設定や処分等の効力については、それが和解によるか否かにかかわりなく、対抗を受けないという地位をも「承継」しているものといえるから、抵当権者のこの地位が、和解成立前に生じているものであれば、競落人は抵当物件に対する和解の「効力」の〔承継〕を明白に否定できるという意味において、右競落取得は特定承継にあたらないということとなろう。)。
これを本件についてみるに、前記のとおり亀田は本件和解成立後に本件建物を競落取得したものであるが、その競売手続の基礎となつた抵当権は、本件和解成立前に設定登記を経ていたというのであるから、亀田が取得した本件建物所有権は和解の効力を受くべき状態におけるそれではなかつたのであり、したがつて、亀田は、申立人の特定承継人にはあたらないから、申立人が亀田を特定承継人として、本件和解調書につき承継執行文の付与を求めることは理由がなく、該申請を拒絶した当庁裁判所書記官の措置は相当であつたというべきである(なお、本件の如き事例においては、申立人指摘の如く、土地所有者は、建物収去土地明渡を実現するために、和解と別箇に、競落人に対して、その旨の訴訟を提起しなければならず、更に付言すれば競落前においては、抵当権者に対して、和解と別個に建物所有者の土地賃借権或はその他の土地使用権原の不存在確認の訴等を提起して、和解に基づく執行に支障なきよう図ることもできるところである。東京控訴院昭和四年二月二八日決定評論一八巻民訴一五〇頁、判例体系九巻(1)、1、2五三一頁参照。しかし、いずれにしても、競落人或は抵当権者を、和解調書の効力の及ぶ特定承継人としてこれらに対処すべきものではない。また、申立人がその主張中において触れる占有承継の点についても、競落人の占有が特定承継にあたる否かを判断するにあたつては、競落人の占有権がよつてたつ本権たる所有権の状態をもあわせ考察して、該占有権の性質が、本来和解の効力を受くべきものであるか否かによつて、これを決しなければならないから、結局、前記結論に消長を来さないことは明らかである。)。
(鈴木健嗣朗)